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下記の通りデータ計算科学セミナーを開催します。参加自由です。興味のある方はどなたでもお越しください。

日時  : 2025年11月5日(水) 15:00~16:40
場所  : 神戸情報科学キャンパス 313セミナー室

講演1

  • スワップモンテカルロダイナミクス下における動的不均一性
  • 講演者 白石 薫平 先生(大阪大学産業科学研究所 助教)
液体を急激に冷却すると、構成分子の運動が温度低下に伴って次第に遅くなり、最終的には液体状の構造のまま運動が凍結し、固化する。ガラス転移と呼ばれるこの現象は、長きに亘り統計物理学・凝縮系物理学の重要な研究対象となってきた。微視的な構成分子の運動を詳細に追跡できるコンピュータ・シミュレーションは、この分野における強力な牽引力となっており、近年ではガラス形成液体のモデル系の改良や数値的アルゴリズムの進化により、ガラス転移近傍の運動を数値的に調べる術が大きく進展しつつある。本発表では、ガラス転移の基本的な性質を紹介し、ガラス数値計算の来し方を簡単に振り返ることで、分野の大問題であった緩和時間の増大の問題を導入する。そして、分野の状況を大きく変えたスワップモンテカルロ法という数値計算方法を紹介し、このアルゴリズムがどのような仕組みで緩和時間を低減させているのかを、動的不均一性の観点から議論する。

講演2

  • 詳細つりあいを破るSwapモンテカルロアルゴリズム
  • 講演者 西川 宣彦  先生(名古屋大学大学院理学研究科 助教)
ガラス転移温度付近にある過冷却液体が示す極めて遅い緩和ダイナミクスは、それ自体がガラス状態を特徴付ける性質として長く研究の対象となってきた一方で、熱平衡状態にあるガラスや緩和ダイナミクスの微視的機構の理解を妨げる大きな要因になっている。ガラスに限らず遅いダイナミクスを伴う現象に対して、熱平衡状態を変えることのない「非物理的」なダイナミクスを持つモンテカルロ法や、定性的に同じ振る舞いを持つ扱いやすい模型の開発は、現象そのものの理解の進展をもたらす極めて有効なアプローチであり、(統計) 物理学の歴史の中でも多くの前例がある。2010年代半ば頃から発展してきたSwapモンテカルロアルゴリズムや多分散な粒子模型の開発もその一つの例と言えるだろう。

Swapアルゴリズムは特定の多分散系に用いると莫大な加速をもたらすものの、アルゴリズムそのものは単純で、1950年代に初めて提案されたモンテカルロアルゴリズムとほとんど同じと言っても良い。そこで我々は、詳細つりあいを満たさない非可逆なルールをSwapアルゴリズムに導入することで、Swapアルゴリズムのさらなる加速を試みた。このアルゴリズムは、近年集中的に研究が行われている「リフティングアルゴリズム」と呼ばれる非可逆なアルゴリズムの一つとして捉えることができ、熱平衡状態を非平衡定常状態として持つ。本セミナーでは、その具体的な構成法と性能について詳しく議論する。時間が許せば、その応用として得られた非常に安定なガラスのinherent structureが持つ振動状態密度についても言及したい。

連絡先 :    芝 隼人(shiba (at) gsis.u-hyogo.ac.jp)